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昭和大学病院

外科学講座小児外科 准教授 千葉 正博 先生

昭和大学小児外科は、新生児~15歳までの外科系疾患の患者を診療対象とし、小児外科疾患の成人発症、キャリーオーバーの患者も受け入れている。外科的侵襲を最小限にとどめた治療を目指し、小児にとってハンディーキャップとなる手術創の整容に配慮した手術を行っている。
短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)は水分や栄養素などの吸収が著しく障害されるが、殊に成長期にある小児において、その影響は大きい。
そこで今回、小児SBSを専門とされる千葉正博先生に、小児SBSの成長期の食事療法や学校との連携など、小児外科疾患ならではの問題や背景についてお話を伺った。

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短腸症候群(Short Bowel Syndrome: SBS)患者について教えてください

患者数と疾患タイプ

現在、外来で診ている患者さんが9名いらっしゃいます。年齢層は、生後6ヵ月から37歳までです。37歳の患者さんは他の施設からの紹介で、治療方針のアセスメントを求めて当科に紹介されてきました。現在は改善がみられて、お仕事に従事されています。
患者さんの原疾患は、腸回転異常症で中腸軸捻転症を起こし、SBSになった症例がほとんどです。その他は腹壁破裂で、腹膜に穴が開いて、本来は体内にあるはずの腸が飛び出した状態で生まれたため、破裂部位を切除せざるを得なかった症例です。あとは新生児腸閉塞の代表的な症例で、多発小腸閉鎖のために先天的に腸閉塞があり小腸がうまく作られず腸が短くなった症例です。

小児SBSの難しさ~成人SBS患者との違い

日々成長する過程にある難しさ

小児SBS治療でいちばん難しいのは、成長の問題が大きく関わってくることです。成人の場合はすでに身体が出来上がっていますから、必要エネルギー量はある程度決まっていて、通常はそれ以上必要となることはありません。したがって、栄養療法の調整など治療計画が、比較的立てやすいと思います。
しかし、小児の場合は身体が出来上がる成長過程にあるので、栄養摂取は常に大きな課題として考慮しなくてはなりません。子どもは日々成長していますし個人差がありますから、それぞれに合わせた必要エネルギー量をきめ細やかに管理することが求められます。そこがいちばん難しいところだと思います。
子どもの成長をみる指標として「成長曲線」がありますが、小児SBSの治療においても、成長曲線に沿った発育ができるように栄養管理をすることが基本になります。原疾患の違いはもちろん、年齢や身長・体重といった個人差を考慮しながら、いかにうまく成長曲線に乗せるかがポイントになります。

成長期を越えたときの難しさ

もうひとつ、小児SBSを診ていて難しいことは、患者さんが成人になった時どうするかということです。クローン病や潰瘍性大腸炎といった炎症性腸疾患に関しては、成人患者を診る専門医がたくさんいらっしゃいますが、小児SBSを管理していただける専門医となると難しい点があります。
当科にも子どものころから診ている成人の患者さんがいらっしゃいますが、いつの時点で成人の診療科へ橋渡しするのか、あるいは小児科でずっと診ていくのか、答えは簡単には出せません。それでもまず患者さんが治療を受けられるように、小児と成人の間の穴埋めをしていかないとなりません。

SBS治療のポイントについて教えてください

小児SBS患者の栄養療法実施時の注意点

小児のTPN(Total Parenteral Nutrition:中心静脈栄養)では、まず静脈確保に傾注します。感染予防を考慮し、静脈はなるべく1カ所にして、基本的には複数のルートは使わないようにしています。今診ている患者さんはほとんどが1カ所しか使っていません。万が一感染を起こしてカテーテルの交換が必要になった場合でも、まず菌血症の状態を鎮静化させ、なるべく同じ血管から入れるようにしています。
HPN(Home Parenteral Nutrition:在宅静脈栄養)の場合は、多くの場面で親御さんの負担が大きくなりますが、病院と連携をとって積極的に治療に参加していただいております。感染予防のための手洗いやうがいの励行など、基本的な指導は普通のお子さんと一緒ですが、全免疫能の8割以上が腸管にあることを考えれば、SBSの患者さんはより一層感染予防に気をつけることは言うまでもありません。小児SBSの場合、予防接種を受けてもなかなか抗体ができないような患者さんが多くいますので、さらに注意が必要です。データとしてのエビデンスはまだありませんが、印象としては予防接種を受けた7割くらいの患者さんが陽性化しないように感じています。
子どもは学校生活がありますから、1回の予防接種で抗体がつかないということは、切実な問題です。TPNに関連する感染だけでなく、水疱瘡やはしかにも非常に感染しやすいので、最も苦労することの1つです。
ですから親御さんには、すべてにおいて常に易感染状態であることを説明しておいて、例えば軽い発熱や発疹であったとしてもすぐにメールで連絡をするように指導しています。特に重篤になりそうな患者さんの場合、早期発見、早期治療で対応が後手に回らないように予防的に治療を開始することもあります。
また、小児SBSではビタミンB12や脂溶性ビタミンなどの吸収障害を念頭に置かなければなりません。そこで、ビタミン不足に対する予防として、通常必要量の1.2倍くらいのビタミン剤を投与しています。TPNやHPNの患者さんにも使っていますし、経口投与でも補充するようにしています。

小児SBS患者とのコミュニケーション

親との関わり

親御さんにとって、目の前の心配事は多々ありますが、現状よりも、将来のことが一番心配なのだと思います。子どもの将来、人生の全体像が一番知りたいことだと思います。ですから、まず将来を見据えた話から始めます。ゴールの見えない話をしても治療に積極的にはなれませんから、具体的に目に見えるゴールの“形”を設定して、「今はこの段階ですからもう少し頑張りましょう」とか「ここまできたから、次のステップを考えましょう」などと具体的にお話をするようにしています。

子どもとの関わり

子ども自身は、病気に関してだんだん理解ができるようになります。小学校低学年では難しいですが、小学校中学年以降になると病気のことを理解し、なぜ食事制限が必要なのか、といったことがわかってきます。少しつまみ食いをしてしまったり、おやつを食べてしまったりすると実際に調子が悪くなり、身をもって病気のことを実感するようになります。
患者さんが中学生、高校生と育っていくと思春期特有の悩みや心配事が出てくるので、身体面・精神面において包括的に成長を見ていく必要性を実感しています。

学校との関わり~1.特別支援学級の現状

子どもにとって、学校は生活の大きな部分を占めるので、一番身近な問題です。それにも関わらず、現在の日本では、特別支援学級に関して厳しい現状があります。現在、公立学校を中心に約645校に看護師が1,500名近く配置されていますが、すべての学校に配置できているわけではありません。特にHPNの患者さんは、通常学級への編入が難しいことが日本の現状です。

学校との関わり~2.授業への対応

このような状況に対して当科での対応は、入院の担当看護師のほか、院内学級の教師が教育者の立場として学校へ同行し、教育カリキュラムに関していろいろ提案をしています。教育が関わっているので、医師や看護師だけでは解決できない問題があることが小児科の難しさです。小児SBSの患者さんは、学習能力は普通の子とまったく変わりなく、授業を受けることには問題はありません。ただ、カテーテルが入っている、胃瘻が入っているというだけで学校の先生方はどうしても抵抗を感じてしまいます。ですから、体育の授業では「これはやめてほしい」といった具体的な指示を出したり、給食の献立を調整したり、どうしたら学校の先生とSBS患者さんが安心感を持っていただけるかを一緒に考えていきます。

学校との関わり~3.給食への対応

通常、1つの学校に管理栄養士は1人ですので、特別食を作るのは現状として難しいでしょう。アレルギーに関しては、アレルギー除去食が広く取り入れられ対応が可能になってきましたが、それ以外の特別食を作るのは難しいかもしれません。そこで、学校から通常の給食の献立表を1ヵ月分いただいて、例えば「脂肪や繊維が多いものを除いてください」「この1品を減らしてください」「残りは半分に」などと、摂取量を調整して対応することを提案しています。

学校との関わり~4.義務教育以降

中学受験、高校受験の患者さんがいらっしゃると、さらに対応が複雑になります。中学までは義務教育なのである程度の問題はクリアできます。しかし、高校以上は義務教育ではないので、看護師の配置はありません。HPNの患者さんが高校に通学することは、とてもハードルが高いことなのです。
高校進学にあたっては、意見書を出すような形で入学試験の前に予め打ち合わせをしなくてはなりません。どの学校に行きたいかというより、どの学校に行けるかということで受験校選択の幅も狭まってしまいます。国公立はまず難しいです。そうなると私学に通うことになるので、親御さんの経済的負担が大きくなり大変だと思います。

TPN、HPNの管理について

HPNと食事療法を併用する患者さんの栄養管理はとても複雑です。栄養管理の決め方は、成長に重点をおきます。通常どおりの成長・発育を得るための十分なカロリーの投与がされているか、また、投与されている栄養量の何%が吸収されているのかを確認します。 TPNの場合はそのまま静脈に入るので、投与量と吸収量にあまり誤差はないと思いますが、経口摂取の場合は実際の吸収効率を考えなければなりません。放射性同位元素を用いて栄養吸収効率を測定することは可能ですが、実際には吸収効率は刻々と変わっていきます。実際は、身体の状態をみて、成長・発育がみられなければ吸収効率が非常に悪くなっていると判断して、TPNを増量するといった対応をしています。

NST・栄養管理について教えてください

NSTとの連携について

昭和大学病院はチーム医療に力を入れていて、当科ではNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)を組織し活動しています。医師、看護師、管理栄養士の他、薬剤師、臨床検査技師、最近では、歯科医師にも参加いただき、嚥下や口腔ケアをみてもらっています。
管理栄養士は、糖尿病や腎不全などの食事療法に関してはスペシャリストですが、SBSに関してはあまり経験がありません。そこで、私がSBSの病態について教育するとともに、献立作成に関しては、「脂質は何g以下に」「繊維質を何g以下に」と具体的に指示するようにしています。もちろん栄養だけでなく、味付けを考慮した食事を一緒に考えるようにしています。例えば、脂肪を制限してエネルギーを上げようとすると味付けが甘くなって、おいしい食事として成り立ちません。単に栄養面だけでなく、おいしい食事として成り立つのかを考慮して、味付けや栄養量の調整をすることが大切です。

家庭での栄養管理について

親御さんには、日誌をつけていただき、便の回数、体調、食事量、メニューを書いてもらっています。外来受診の2日~1週間前に日誌の内容、特に食事内容や食事量をメールで送っていただき、予め確認をしておきます。そして月1回の受診の際に、管理栄養士にも診察に参加してもらって食事内容を確認したり、相談に乗ったりしています。
食事メニューはバラエティに富むようにしなければならないので、親御さんは大変だと思います。最初は、メニューを考えるときの参考として、病院の特別食メニューを1ヵ月分お渡ししています。病院のメニューを真似すればいいので、親御さんの負担が多少は減ると思います。そして、徐々に慣れていけば、食材の種類や味付けを変えたり、魚の種類を変えたり、肉であれば牛・豚・鶏のどれを使うかなど、いろいろ工夫ができて、家族と同じものが食べられるようになります。子どもにとって、同じ食卓で同じ食事ができることは大きな楽しみですし、食事を作る側にとっても負担の軽減になります。食事は毎日のことですから、無理なく続けられるようにすることが大切です。

今後のSBS治療への期待について教えてください

現在、小児SBSの治療はTPNが主体となりますが、可能な限り経腸栄養、経口摂取へ移行できることを目指します。移植に関しては、基本的には静脈確保が困難であったり、肝臓の機能が悪くなってきたりといったことが適応基準になってきます。親御さんは移植について非常によく調べていますが、成功率や無病生存率の現状がわかると、移植を希望される方は多くありません。現状としては薬や日常の栄養管理などで治ることを期待しています。
今後のSBSの治療としては、TPNといった現在の治療を続けながら、いくつかの成長ホルモンや増殖因子を合わせて使っていくような治療法が考えられると思います。あとは、再生医療の分野になりますが、幹細胞を使って腸管にプラスとなるようなことが検討されるでしょう。いずれにしてもやるべきことはたくさんありますし、可能性はあります。小児SBSの患者さんが普通のお子さんと変わらずに成長し、普通の生活ができるようになることを期待しています。

JAP/C-ANPROM/TED/17/0003

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