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大阪大学大学院医学系研究科

外科学講座 小児成育外科学教室 准教授 田附 裕子 先生

大阪大学小児外科は、「子供たちにとって負担が少なく、成長の妨げとならない手術を目指して」を合い言葉に、質の高い小児外科診療、新生児~成人に至る小児外科関連の疾患を広く受け入れている。特に、短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)に代表される腸管不全の治療や栄養管理にも積極的に診療を行い、充実したHPN(Home Parenteral Nutrition:在宅静脈栄養)を実現している。そこで今回、医療は最高の治療を提供するサービス業という考えのもと、日々診療に尽力されている田附裕子先生に、小児SBS治療に対する考え方や患者・ご家族とのコミュニケーションなど、多岐にわたるお話を伺った。

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短腸症候群(Short Bowel Syndrome:SBS)について教えてください

大阪大学小児外科におけるSBS患者さん

当院では、長きにわたり腸管不全の患者さんを診ています。中でもSBSは、診断基準や捉え方が施設あるいは医師によっても異なる場合があります。大きく2つに分ける事ができますが、ひとつは、先天的な理由で、生まれてすぐにSBSになった患者さん、もうひとつは、何らかの理由でストマを造設し、後天的にSBSになった患者さんです。当院の患者さんは、前者でいえば20人くらいですが、後者で成人外科に通院中の患者さんも含めると40人近くになると思います。
年齢層は、生後1カ月に満たないお子さんから、成人まで幅広く、小児期を過ぎて前医で継続して診てもらえなくなったため当院に来た患者さんもいます。
当院の小児外科で診る前者の原疾患は中腸軸捻転、壊死性腸炎、小腸閉鎖などが多いですが、後者の原疾患は、ヒルシュスプルング病(腸管の神経節細胞が欠如)の類縁疾患で、神経節細胞は存在するのに腸管運動不全をきたす腸管神経節細胞僅少症(Hypoganglionosis:hypo)や膀胱の機能が低下する巨大膀胱短小結腸腸管蠕動不全症(Megacystis-Microcolon-Intestinal Hypoperistalsis Syndrome:MMIHS)、慢性特発性偽性腸閉塞症(Chronic Intestinal Pseudo- Obstruction Syndrome :CIPO/CIIPS)など様々です。先天性微絨毛萎縮症などの腸が機能しないためにストマを造設して短腸になった患者さんもおられます。

SBS治療のポイントについて教えてください

治療にかかせないサポート

家庭環境へのサポート

小児SBSの一番の問題は、患者さん自身が成長過程にあるということです。成長過程にある子どもにとって十分な栄養摂取は必須ですから、小児SBSの治療では、TPN(Total Parenteral Nutrition:中心静脈栄養)をうまく管理することが重要になります。一方、HPN(Home Parenteral Nutrition:在宅静脈栄養)で栄養管理がうまくいくかどうかは、家庭環境が大きく影響します。環境が整っていなければサポーター(訪問看護師等)を配置します。ただ問題なのは、多くのサポーターは成人をサポートしている方で、子どもをサポートすることに慣れていない方が多いのです。成人や老人と、子どものサポートを同様には考えられませんから、それもまた大変なことのひとつです。
入院しているお子さんが退院してHPNに移行するとき、親御さんはとても不安になると思います。地元の病院で診てもらえれば一番いいと思いますが、コスト面など病院経営の諸事情もありますから、なかなかうまくいかないのが実情でしょう。当院は、薬剤部が院内製剤の調整を行い、セレンやその他の製剤にも対応して、積極的にHPNをフォローしています。すべての患者さんを受け入れ、断ることはしていません。

母親へのサポート

HPNではやはり母親の負担が大きくなります。そこで、母親に対する指導や相談も行っています。普通、「退院してHPNに移行します」と言われたら、退院の嬉しさより、「どうしよう」とほとんどの方が不安に思います。ですから、まずその恐怖や不安を取り除くことから治療が始まります。それは担当医の重要な仕事のひとつと考えます。母親は自分が産んだ子がSBSになったことに対して、どうしても負の感情を持つようになり、精神的な負担というのはすごく大きいものです。
例えば、病棟では、患者さんや家族さんの気持ちを和らげるためにボランティアさんや保母さんが廊下の壁や窓を漫画のキャラクターや折紙の花などで飾り付けしているのですが、驚くことにそれを退院まで気が付かないお母さんもいらっしゃるのです。看病に一生懸命すぎて、肉体的にも精神的にもいっぱいいっぱいになってしまい、視野に入らないのかもしれません。退院となってやっと気持ちがほぐれたときふと回りが見えるようになって、「こんな絵があったんですね」と初めて気が付いたという話もあります。親御さんはそれほどまでに追い詰められてしまうのです。自分自身を責めたり、食べさせたものがいけなかったのではないかと何かを疑ったり、不安で仕方がない・・・ですから医師側も、家庭環境も含めすべてを受け入れるくらいの相当な覚悟をもってサポートしなくてはなりません。

治療に対する考え方

「治療はメリット」という発想~病気の不安を取り除く

治療に不安が伴うのはしょうがないのですが、とはいえ、心配をすべて挙げ始めたらキリはありません。ほかの病気でも同じですが、考え方次第で治療を前向きにすることは可能です。
点滴は楽になるために必要だからしている――だから、点滴はメリット。しんどいから病院に行く――だから、病院へ行くことはデメリットではなくてメリット。つまり、薬はメリットだからこそ処方するのであって、メリットがなければ処方なんてしない――つまり、すべて考え方次第です。このように言い続けているせいか、当院ではあまりネガティブな親御さんはおられませんし、積極的に治療に参加されています。私が提供できないメリット、例えば、成長発達に関するフォローは小児科の先生に、社会支援についてはケースワーカーの先生に、そして、子供にとっての社会学習(学校教育・生活指導など)については学校にご協力をいただいています。

「治療はメリット」を子どもに伝える~病気を理解させる

ほとんどの親御さんは、子どもから「なんで病気になったの?」「お友達となぜちがうの?」という質問をされると思います。そのとき、「お腹が痛くなったから治療したんだよ」と言えば、「わかった」と理解を示すこともありますが、多くの子にとっては「病気」は、過去に起きたマイナスの記憶としてしか理解されません。そこで心をプラスへ変更するような提案が必要になります。例えば、「でもね・・・このお薬を使えば、がんばれるんだよ。」とか「このお薬を使えば、同じにがんばれるんだよ。」とかです。マイナスの経験をゼロに引き上げてあげるよう、治療はメリットと思えるよう、前向きな提案をすれば、マイナスの記憶がプラスの経験に変化していくのではないでしょうか。
なお、この「同じ」という意味がポイントで、これは、病気の子どもが特に優遇されるわけではなく、あくまでも周りのお友達と上でも下でもない、社会生活でのスタートラインをそろえるということです。もちろんできないこともあるので、それは素直に「ごめんね。これは同じにできないんだ・・」とお話します。
その後、病気や治療について少しずつ理解をするようになると、次は、子どもなりに親の気持ちを推し量るようになり、成長していきます。時々、気を使いすぎて、痛かったり調子が悪かったりしても、それを親に伝えられないお子さんがいます。例えば子どもが虫歯になって痛いと親に言ったら、親は「なんでもっと早く言わなかったの!いつから!」などと言ってしまうでしょう。親は子どもの治療が少しでも軽くなればいいと思って言ったのですが、子どもは「怒られる」と感じてしまうのです。親御さんは「この子は我慢強くて・・」と言いますが、そうではなくて、いつの間にか言えない・・我慢するようになってしまっているだけのことも多いのです。
「痛かったの?そっか、なら病院でみてもらおう!・・・はやく治るといいね。」というように、子どもにとって早期治療がプラスの記憶になるような経験を日々積み重ねていってあげられれば、「しんどいから病院に行く」と自分から素直に言えるようになり、病気の治療に対する自立心が芽生えているのかもしれません。
病気の理解には時間はかかりますが、次第に病気や治療のこと、治療のメリットをわかってくれれば、うまく病気と付き合って自立できるようになるでしょう。それを見守っていきたいです。

患者さんを支える信頼とコミュニケーション

小児科と小児外科の連携

小児SBSの治療にあたっては、小児科と小児外科が役割分担をして連携をとっています。お子さんの成長発達に関することは小児科に任せ、カテーテル管理や原疾患のフォローでは小児外科が基本になっています。カルテに「何々の薬をこうしようと思いますがどうでしょう」と書いておくと、小児科の先生がキャッチしてくださって処方箋を書き換えてくださることもあります。こういうカルテ上の“会話”があって、双方向で連携を取っています。それぞれの専門や視点から患者さんをダブルチェックで診ている感じすね。とてもよいコミュニケーションがとれていると思います。

家庭・学校との連携

学校に対する指導は、看護師さんたちにもかかわっていただき、頻繁に行っています。学校では教頭先生、保育園なら園長先生といった責任のある立場の先生方が対応して話を聞いてくださいます。HPNの子どもが学校に行くとき、たとえ点滴を止めていても、カテーテルがついているだけで「誰かが引っ張ってしまったらどうしよう」という心配要素が出てきます。学校側はどうしても何か事故が起こる事を心配されますから仕方ないと思いますが、だからこそ学校側が不安にならないよう綿密に連携をとって、病気を理解していただき治療(点滴)がその子のメリットとなっていることを理解してもらっています。
「この子は点滴をしていれば普通に生活できます」と説明し、点滴のメリットを理解してくださるとその後は意外とスムーズに行きます。
あとは、親御さんがどのくらい地域と関わっているかということも考えます。例えば、病気のお子さんに兄弟姉妹がいて、すでにお兄ちゃんを通じて地域とコミュニケーションがあると、「〇〇ちゃんの弟さんね」と、周囲の方も受け入れやすいようです。
ただ私が釘を刺すのは、親の責任や義務は絶対で、学校にすべて任せていいというわけではないという点です。厳しい表現ではありますが、学校の協力は、あくまで病気の子がみんなと集団で学校生活を送るための環境を整えるための子どもへのサポートであって、病気の子どもを預ける場所ではありません。学校側の立場を擁護するわけではないですが、自宅から通学する子どもの健康管理や病気の管理は、一番病状を理解している親の責任なのは仕方がないことです。親御さんが何かあれば責任をもって対応するという態度を学校側へ示すことが重要です。もちろん、緊急時の受け入れは我々が保証します。

今後のSBS治療への期待について教えてください

いちばんいいのは腸が伸びる薬です。SBSの治療は、内容物が通過する時間を延ばし、吸収する面積を拡大することです。そのためには、やはり腸を長くすることが必要です。その考えのもと、腸管に互い違いに切れ込みを入れて短冊状にするSTEP(Serial Transverse Enteroplasty Procedure:腸管延長術)が成り立っているわけです。
「長くする」ということでは、移植も考えられます。ただ、拒絶反応や感染性合併症などの問題があります。ですから、移植でQOLが上がればメリットですが、QOLが上がらなければメリットはないと考えます。移植は術後のQOLも含め、成功率が上がれば治療の選択肢として考えてよいと思います。将来的には、iPS細胞の再生医療への応用が期待されるかもしれません。
その他、いろいろな作用機序をもった腸の吸収能を上げる薬が登場することに期待します。下痢止めも吸収能を上げることに役立つでしょうし、グルタミンも腸粘膜を修復するという役割があります。また、絨毛の高さを上昇させる薬も吸収能を向上させるでしょう。
昨今は、さまざまな場面でQOLが求められるようになりました。SBSの治療においても同様です。QOLを担保するのが点滴なら点滴がいいし、移植で点滴がいらなくなるなら、それがメリットです。
大切なのは、その患者さんにとって何が一番いい生活を維持できる方法かということです。年齢によっても違いますし、選択肢はひとつではありません。点滴も決して悪くない治療です。もちろん点滴はしないに越したことはありませんが、点滴が必要ならそれでいい、点滴は究極の栄養移植というふうに、視点を変えて一歩進めて考えることが大切です。

C-ANPROM/JP//0120

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